RDI®とは

RDI®完全ガイド:基本から活用例まで

「どうしてうちの子は人の気持ちがわかりにくいの?」「集団に入ると固まってしまい、声をかけても反応が薄い……」——お子さんの社会性やコミュニケーションの難しさに、そんな不安や戸惑いを感じていませんか?
RDI(Relationship Development Intervention) は、対人関係づくりに苦手さを抱える子どもたちが、“人と一緒にいる楽しさ” と “変化に適応する柔軟さ” を取り戻すために開発された、家族参加型の発達支援プログラムです。親がガイドとなり、日常のささいな出来事を教材にしながら、子どもの 「動的知能」——複雑で予測不能な世界に対応できる思考と感情の回路 をじっくり育てていきます。

本ページでは、RDI とは何か、その誕生と進化の歴史、押さえるべき 3 つのキーポイント(6 つの発達プロセスとレベル 6 までの段階を含む)、そして家庭で今日から始められる具体的な活用例まで、最新の英語圏文献をもとにわかりやすく解説します。
「まず RDI を知りたい!」と思ったら、ぜひこの記事から読み始めてください。

目次

I. はじめに:RDI®とは?

RDI(Relationship Development Intervention)は、米国の臨床心理学者スティーブン・E・ガットステイン博士が1990年代末に開発した家族参加型の発達支援プログラムです。
自閉スペクトラム症(ASD)児者が苦手とする 情緒共有・柔軟思考・共同問題解決 といった“動的知能(Dynamic Intelligence)”を伸ばすことを最大の目的とし、親を「ガイド」、子どもを「認知的徒弟(アプレンティス)」と位置づけて日常生活そのものを学びの場に再設計します。
「親子の関わり」を主軸に、社会で生き抜く柔軟性を育てる発達支援プログラム*です。

対象となる人々

RDI®は、もともと**自閉スペクトラム症(ASD)**の子どもが抱えやすい「人と協調しながら柔軟に考え、状況に合わせて行動を調整する力」の弱さに着目して開発されました。現在では、ADHD、学習障害、社交不安など、対人面の柔軟性に課題を持つ幅広い発達特性の子どもや成人にも適用されています。幼児期から成人期まで年齢制限はなく、発達段階や興味に合わせて課題を組み替えられるため、思春期・成人期の支援事例も増えています。実践スタイルは「家庭が教室」——保護者がガイド役となり、日常生活そのものを教材にします。一般的には週に数時間の家庭課題と、月に一度程度のオンライン・コンサルテーションで専門家からフィードバックを受ける形が主流で、地理的制約を受けにくいのも特徴です。

従来の療育との違いと独自性

従来の行動療法(ABA など)が “個々の行動スキルを教え、強化して定着させる” ことを目的にしているのに対し、RDI®は**「ダイナミック・インテリジェンス」——変化する状況で考え直し、相手と協働しながら問題を解決する力** を育てる点が大きく異なります。セラピスト主導のセッションではなく、親が半歩先を歩く“ガイド”となり、家庭・学校・地域といった日常のあらゆる場面で「少しだけ難しい共同課題」を設計。子ども自身が気づき、挑戦し、振り返るプロセスを繰り返すことで、内面からの変化を引き出します。2009 年に発表された改訂モデル以降は、旧来の固定カリキュラム制を廃し、子どもの発達プロフィールに合わせてステップ順序を入れ替える個別化パスウェイ方式へと移行。こうした柔軟性と“親が専門家になる”仕組みこそが、RDI®を他の療育法と一線を画す最大の独自性と言えるでしょう。

II. RDI の歴史

RDI®の臨床応用が本格的に始まったのは 1996 年。スティーブン・グティン博士の研究チームがテキサス州ヒューストンに Connections Center を設立し、親子向けプログラムの提供を開始しました。当時のRDI®は 「6 レベル・24 ステージ」 に細分化された対人発達モデルを採用し、保護者が子どもの進度に合わせて段階ごとに“レベルアップ”していく 進級型カリキュラム が特徴でした。

その成果は、2001 年の著書 『Solving the Relationship Puzzle』 と、翌2002 年に刊行された一連のアクティビティ集にまとめられ、RDI®の名が世界に広がる契機となります。親子が日常で取り組める具体的課題が示されたことで、家庭ベースのプログラムとして一気に注目を集めました。

プログラムは 2005 年、国際組織 RDIconnect® の発足を機に急速に国際化します。オンライン学習システムとコンサルタント養成コースが整備され、わずか数年で日本を含む15 か国以上に導入が進みました。遠隔地の家族も動画共有とフィードバックを通じて専門指導を受けられる仕組みが整ったことで、RDI®は“家庭が主役の療育”として世界各地に根づきます。

さらに 2009 年、決定版テキスト 『The RDI Book』 が刊行され、プログラムは大きな転機を迎えます。従来の「6 レベル制」は**“理論的雛形”** と位置づけ直され、子どもの発達プロフィールや家族文化に合わせて課題の順序を柔軟に入れ替える 個別化パスウェイ へ移行すると宣言されました。以後、RDI®は固定カリキュラムを廃し、「6 つの発達プロセス」を自在に組み合わせる方式――すなわち ①情動共有 ②経験共有 ③見通しと柔軟性 ④役割交替 ⑤共同問題解決 ⑥自我発達――を採用し続けています。

現在、RDI®は北米・欧州・アジア・オセアニアの30 か国以上で実践され、オンライン指導とデジタル教材の充実により、地域格差を超えて受講できる環境が整いつつあります。

III. 押さえるべき 3 つのポイント

RDI®は 「ダイナミック・インテリジェンス(Dynamic Intelligence/DI)」 を育むことを最終目標に据えています。DIとは、変化する社会状況や対人関係の中で “考え直す・協働する・問題を解決する” ための総合的な柔軟性です。この能力を伸ばすために、RDI®はつぎの3つの視点を不可分の柱として組み立てられています。

1. ダイナミック・インテリジェンス(Dynamic Intelligence)

RDI®が「育てたい力」そのものがダイナミック・インテリジェンスです。
DIは――

  1. 情動共有(相手と気持ちを合わせられる)
  2. 経験共有(出来事を“いま一緒に味わう”)
  3. 見通しと柔軟性(計画を立て直せる)
  4. 役割交替(リーダー/フォロワーを切り替えられる)
  5. 共同問題解決(協力して課題を乗り越える)
  6. 自我発達(自分を客観視し、他者と区別できる)

――という6領域で評価されます。プログラムでは、家庭の動画を専門家が分析し、未発達な領域を“半歩だけ難しい”課題で刺激していくことで、子どもの内側から柔軟性を引き出します。

2. ガイド関係(Guide Relationship)

DIを伸ばす舞台となるのが、親(ガイド)と子(アプレンティス)の関係です。RDI®では、親が「先を教える教師」ではなく「半歩先を歩く伴走者」として位置づけられます。ガイドは ①共同の目標を提示し ②ヒントを最小限にとどめ ③子どもが気づいて行動に移せる時間的余白を確保します。こうして子が「自分でやり遂げた」感覚を得られると、自己効力感と内発的動機づけが高まり、次の挑戦に踏み出す循環が生まれます。

3. 経験共有(Shared Experience)

ガイド関係を機能させるエンジンが経験共有です。RDI®では、作業の結果より「いま一緒に何を感じているか」を共有することに重点を置きます。視線を合わせる、間(ま)を取る、ジェスチャーで合図を送る――こうした非言語的やり取りを通じて情動が同期すると、安全基地の感覚が強まり、新しい挑戦に向かう心理的余裕が生まれます。言葉よりも“共同で味わう沈黙”が尊重される点は、RDI®ならではの特徴です。

3視点の統合がもたらすもの

  • DI =「どの力を伸ばすか」という目標
  • ガイド関係 =「誰がどう伴走するか」という方法
  • 経験共有 =「実際のやり取りをどう質的に豊かにするか」という手段

この三位一体がそろうことで、行動表面の修正ではなく、“変化を楽しみ、他者と協働できる内面” が少しずつ育まれていきます。RDI®の実践現場で見られる「表情が柔らかくなる」「予測外の出来事でもリカバリーできる」「共同作業を楽しめる」といった変化は、まさに3視点が連動した成果と言えるでしょう。

(C) チェックリストから“発達地図”へ
2000年代後半、神経発達研究の進展を受けて RDI は固定手順を撤廃。コンサルタントは 6 プロセスの発達プロフィールを評価し、“今伸ばすべき回路”をカスタム設計します。目的はチェック欄を埋めることではなく、変化に強い脳のネットワークを作ることです。

IV. DRI®の具体的な活用例

RDI®は「特別な教材」や「決まったセラピー枠」を必要とせず、家庭・学校・地域など日常生活そのものを舞台に実践できるアプローチです。ここでは、RDI®の核となる 3 つの要素――経験共有・ガイド関係・ダイナミック・インテリジェンス――をそれぞれ体験できる具体例を紹介します。

1. 経験共有(Shared Experience)──“一緒に味わう” 時間をつくる

場面例:夕食づくりでの「味見タイム」

夕食を準備する際、親は具材を炒めながら子どもに「ちょっと味見してみようか」と声をかけ、スプーンを静かに差し出します。子どもが味見をした瞬間、親はことさら言葉にせず視線を合わせ、にっこり笑うだけ。その沈黙の数秒間に「おいしいね」「次はどうしようか」という感情が双方に行き交います。
RDI®では、このように結果ではなく“いま一緒に感じたこと”を共有する非言語的やり取りを重ねることで、情動同期と安心感を育てることを重視します。言葉より“まなざし”や“間(ま)”を大切にするのがポイントです。


2. ガイド関係(Guide Relationship)──親が“半歩先”を歩く伴走者に

場面例:本棚の整理で役割交替

休日、本棚が散らかっているのに気づいた親は「一緒にきれいにしよう」と提案。まずは自分が 1 冊だけ本を取り、位置を変えて戻します。次に無言で子どもに本をそっと手渡し、5 秒間だけ待つ。子どもが動くと、親はうなずいて後ろに下がり、今度は子ども主導で 1 冊入れ替える様子を見守ります。
この「親→子→親…」と役割を交替しながら作業を続けるプロセスが、RDI®でいうガイド関係を体験する絶好の機会。親は“教える”のではなく“半歩先を示して待つ”ことで、子どもが自発的に参加し、成功感を味わえるよう導きます。


3. ダイナミック・インテリジェンス(Dynamic Intelligence)──変化に合わせて考え直す力を育む

場面例:散歩コースのアクシデントをチャンスに

放課後の散歩コースで、いつもの公園が工事中で入れなくなっていることに気づいた親子。親はすぐに代替案を指示するのではなく、「どうしようか?」と問いを投げて 10 秒待つ。子どもが「じゃあ川沿いを歩く?」と提案すれば「いい考えだね、信号を渡ってみよう」と同意します。途中で雨がぱらついてきたら、「うーん、雨宿りする?走る?」と再び相談。
予期せぬ変化に直面したとき、計画を立て直し、協働して決め、問題を解く一連の流れこそがダイナミック・インテリジェンスを鍛える実践の場になります。うまくいった後は「急な変更でも落ち着いて動けたね」と振り返り、成功体験を言語化することで学びが定着します。

補足|公式プログラム(RDIConnect®)との違いについて

ここで紹介したのは、あくまで家庭で取り入れやすいエッセンス型の応用例です。認定コンサルタントによる公式プログラムでは、家庭動画を解析しながら個別プランを立て、ダイナミック・インテリジェンスの 6 領域を体系的に伸ばす仕組みが組まれています。本格的な支援を希望する場合は、RDIConnect® 公式サイトから認定コンサルタントへの相談をおすすめします。

RDI®は、「特別な道具より、日常の小さな出来事」 を教材に変えます。親がガイドとなり、“共有 → 役割交替 → 振り返り” を繰り返すことで、子どもは変化を楽しみ、他者と協働できる柔軟な力を少しずつ育んでいくのです。

V. まとめ:RDI®がもたらす可能性

RDI®は、子どもの内側に眠る**「変化に合わせて考え直し、人と協働する力」**を育てる、関係性ベースの発達支援プログラムです。特定の行動スキルを単発で教えるのではなく、親子のガイド関係を軸に ダイナミック・インテリジェンス(情動共有・柔軟性・共同問題解決など六つの発達プロセス)を段階的に伸ばしていく点に独自性があります。

このアプローチでは、固定カリキュラムよりも**「その子のプロファイルに合わせた個別パスウェイ」**を重視します。親が“半歩先”を歩くガイドとなり、日常生活の中で少しだけ難しい課題を設計しては振り返る──この循環が、子どもに「自分で気づき、自分で軌道修正できる」という自信を芽生えさせます。結果として、ASD をはじめとする発達の多様性を持つ子どもたちが、予期せぬ出来事や人とのかかわりを前向きに楽しめるようになる――それがRDI®の最大の価値です。

もしお子さんが「予定の変更に混乱する」「共同作業が苦手」など、表には見えにくい困難を抱えていると感じるなら、RDI®は新たな選択肢になり得ます。国際組織 RDIConnect® では、認定コンサルタントによるオンラインプログラムや保護者向けウェビナーを提供しており、日本語字幕・通訳付きのコースも増えてきました。地理的な制約があっても、家庭で学び始めやすい環境が整いつつあります。

今後の展望と日本におけるさらなる普及への期待

日本国内では、認定コンサルタントや専門家の数は限られています。
今後、認定コンサルタントの養成とオンライン教材の普及が進めば、家庭が主役となるRDI®モデルは発達支援の新たな段階を迎える鍵となるでしょう。
子どもと大人がともに学び、ともに喜びを共有する日常が広がれば、日本の発達支援の風景は大きく変わるはずです。

“小さな挑戦を、一緒に味わい、振り返る。”
その積み重ねが、子どもが未来を切り拓くダイナミックな力へと結実します。RDI®は、今日の親子のやり取りを、明日の社会で活きるセルフガイド力へつなげる架け橋なのです。

参考リンク・参考書籍

公式情報

  • RDIConnect® 公式サイトhttps://www.rdiconnect.com/
    └ RDI®トレーニングプログラム、認定コンサルタント検索、最新研究の概要を公開。

主要な原著・邦訳書

  • Steven E. Gutstein & Rachelle K. Sheely
    Relationship Development Intervention with Young Children(2002)
    ― 最初期の「6 レベル・24 ステージ」モデルを詳述した原典。
  • Steven E. Gutstein
    Solving the Relationship Puzzle(2001)
    ― 親子で取り組める具体的アクティビティ集。RDI®を世界に広めたベストセラー。
  • Steven E. Gutstein
    The RDI Book: Forging New Pathways for Autism(2009)
    ― 個別化パスウェイ方式への転換を宣言した決定版ガイド。PDFサンプルが公開されている。rdiconnect.com
  • スティーブン E. ガットステイン/著 杉山登志郎・小野次朗/監修 足立佳美/監訳 坂本輝世/訳
    RDI「対人関係発達指導法」
    [自閉症/アスペルガー症候群]対人関係のパズルを解く発達支援プログラム
  • スティーブン・E・ガットステイン/著 レイチェル・K・シーリー/著 榊原洋一/監訳 小川由紀野/訳 ティスマ彰子/訳
    自閉症・アスペルガー症候群のRDI[対人関係発達指導法]アクティビティ【子ども編】
    家庭・保育園・幼稚園・学校でできる発達支援プログラム

関連情報

  • Autism Speaks – RDI®概要ページ
    世界的自閉症支援団体による第三者解説。RDI®の目的と家族中心モデルを簡潔に紹介。autismspeaks.org
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